誠実一路。誠意を貫く

うまくやりすごそうとすれば、必ずばれる。まっすぐに生きる人は不器用でも愛される

まごころのままに
episode15

誠心誠意向き合えば、人は心を開いてくれる

アルバイトではなく、社員として、初めて就いた仕事は有線放送の営業だった。営業という仕事に就きたかったわけではなかったけれど、彼女との結婚のためには時間がなかった。本命の仕事は式を挙げてから、じっくり探して転職すればいい。

有線放送の営業所へ出勤した最初の日、僕より2歳年上の先輩が終日僕に付き添ってくれた。先輩は来月転職する。それで僕が人員補充にこの営業所に配属された。

「営業はノルマの月15件くらいは取れるから大丈夫。3か月の放送料をサービスすれば、夜のお店はすぐに他社から切り替えてくれるから。新聞屋みたいなものさ。それより集金だね。」 営業車を運転しながら先輩がそういった。

「夜店、新人に月250件も任せるなんて、どうかしてるよ。」 赤信号で止まった時、先輩はそう言うと、気の毒そうに助手席の僕をみた。
「まあ、引継ぎも兼ねて何件か行くから、そこで見てて。」 信号が青に変わり車が発進した。荒々しいアクセルの踏み方だった。

郊外のスナックやパブは、国道沿いや住宅街の中にある。それを一軒一軒まわって集金をする。スナックのドアを開けたままで話す先輩の後ろ姿を助手席でみていると、先輩がくるりとお店に背を向けて戻ってきた。

「あった、あった。」 僕の座る助手席のダッシュボードのグローブボックスから先輩が見つけ出したのはペンチだった。そこに先輩を追い掛けるようにスナックのママが現れた。

「払わないって言ってるでしょ、帰って!」とママ。
「払わないなら、有線の線切りますよ」とペンチをママに突き付ける先輩。
「ちょっと何よ、これ!警察呼ぶわ」 ママの声は悲鳴に近い。
「呼べるもんなら呼んでみな!」

こんなやり取りで、金を払う人はいない。怒号と悲鳴を聞きながら、これが来月からの自分の仕事だと思うと、僕はすっかり気が滅入ってしまった。

 

1か月間、先輩はとても優しく僕の面倒をみてくれた。何度も飲みに連れて行ってもらったし、所長や近所の営業所の先輩たちの前で小生意気なことを言っても、先輩がいつもフォローしてくれた。明け方まで飲んで、先輩の家に転がり込んだこともあった。しかし1ヶ月後、彼は去った。

250件の集金先に対して1件につき3回~5回は足を運ぶ。先輩の教えを無視して、僕はペンチを持っていかなかった。月3000円とか4000円の放送料を払えないわけがない。払いたくないのだ。僕は相手が気持ちよく払ってくれるために何でもしようと心に決めた。

「あの人辞めたの?よかったわ。」
先輩が荒らしていった畑を整備し、耕し直す。素敵な野菜や果実が実るまで1年掛かった。気さくな会話を心掛け、掃除や電気の修理など、何でもやった。

ちょうど2~3ヶ月経った頃、僕と同じタイミングで入社した別の営業所の新人が辞めていった。「こんなところで道草を食っている暇は僕にはないんです。」 彼の台詞は各営業所の間で話題になっていた。声には出さなかったけれど、彼の言いたいことが僕にはよくわかった。業界の慣習や仕組み、長年の間に醸成された古い文化…、外から来た人間には腑に落ちないことがここには多すぎる。できれば僕も同じ台詞を吐きたいくらいだった。でも僕にはとりあえずでも結果が必要だった。理屈ではなく、汗と葛藤を伴う行動で結果を手にすることがあの日誓った自分との約束だった。

「もう少し、ゆっくりして行きなさいよ。」
1年が経った頃には仕込み中の煮物などをご馳走になりながら、250件の集金先ほとんどの店で帰してもらえないくらいになっていた。もちろん放送料も1回で払ってくれる。

閉店時間になると有線の別れのワルツで常連の不倫相手の年配サラリーマンとダンスを踊るママ、古びた団地の外れで手作りラーメンをつくってお店の起死回生を図ったおばあちゃん、営業の空き時間にギターの練習をすればいいと合鍵をくれたマスター…。誠心誠意、向き合えば人は心を開いてくれる。集金のたびに聴いたそれぞれの人生。そんな一人ひとりの人生が僕には愛おしく思えていた。

まごころのままに

雨が降るたびに したたり落ちる あの雫のように
清らかな光が 年を重ね 岩を削るように

遠くをみよう 今日明日を超えてゆく舟
うまくはやるな いつかはばれるから

馬鹿でもいいだろ? まっすぐに生きてゆく
まごころのままに あきれるほどに貫けば

嗚呼 風がわらう 嗚呼 山もわらう
茜色の空がほほえむ

嗚呼 太陽の光は 地上のものすべて照らすから
嗚呼 今日も世界は 熱と光に包まれ 無償の愛に包まれ まわる

生きとし生けるものの

ゆるやかな繋がり(メロディ)に 鳥は歌い 樹々は実を結ぶ
幾層にもうねる 崖の模様が 時代(とき)を語るように

遠くをみよう 未来へと進みゆく舟
うまくはやるな いつかはばれるから

馬鹿でもいいだろ? まっすぐに生きてゆく
まごころのままに あきれるほどに貫けば

嗚呼 街がわらう 嗚呼 川もわらう 茜色の空がほほえむ

まごころのままに

Music Video「まごころのままに」

Lyrics/Composed/Arranged/Movie:Chihiro

-- SpecialThanks --

<Vroid キャラクター>
はにょえのお店/hanyoeさん(居酒屋の女将・Barのマスター)

<Vroid 衣装、パーツ>
スナック☆アツコ資材館/atsukommxさん(居酒屋の女将の割烹着・和服)
みずきの仕立屋さん/みずきのりんご(RuRingoM)さん(Barのマスターのフォーマルベスト)
OFFGALA/galaさん(ヒロの髪型)
赤羽根衣装店/赤羽根さん(ヒロの作業着・ヘルメット)
studioH。さん(ヒロのスーツ・Yシャツ・ネクタイ)
もちょんさん(ライラ服のbutton)、華音3Rさん(ライラ服のlacework)
なまこん庵/霜月 泉さん(Barの客のスーツ)

<3Dモデル>
プリメロ工房/射当ユウキさん(帆船)

<背景画>
HiroSundさん(町の細い路地)
yoseiさん(居酒屋の入口/改変・居酒屋店内/改変・カラオケ機器/改変)
niiさん(岩肌の背景)、GTR719さん(三輪バイク後ろ/改変)
K-factoryさん(三輪バイク横)、丸岡ジョーさん(三輪バイク後ろ/改変)
母上さん(ドライバー)、T.Hさん(工具箱)、ぶたどんさん(田んぼの夕焼け風景)
Yasushiさん(天井エアコン)、わいるどべあさん(脚立)
MOKOさん(天井の木目/改変)、minokikakuさん(段ボール箱・ジェラルミンケース)
Metro Hopperさん(居酒屋の看板/改変)、いてざさん(工具)
kushi_70D(駅の風景・神宮の風景)、yumaziさん(Bar店内)
ACworksさん(カラオケのリモコン)、スイレンさん(カウンター/改変)
gunaonedesignさん(カラオケlogo)、Y.ペーニアさん(たまごサンド)

Vocal:Vocaloid MEIKO V3 / Character:Vroid-Studio、3tene Motion Capture:カーネギーメロン大学モーションキャプチャライブラリ、Jennifer Sumbu Longeさん StockFootage:Storyblocks