アルバイトをするわけでもなく、就職をするわけでもなく、1年近く僕は実家の部屋に引き籠ったままだった。短大を出て就職した彼女が、毎週土曜日になると訪ねて来てくれていた。
「彼のこと、好きになっちゃったみたい…。」
ある日、彼女がそんな言葉を口にした。彼とは彼女と僕が知り合うきっかけになった僕の同級生だ。例のアルバイト先の一件から、すっかり神経が衰弱していた僕はその言葉をちゃんと受け止められず、取り乱した。夜中の12時か1時だったと思う。アルコールもかなり入っていた。
翌日、警察から「お宅の自転車が乗り捨てられていたので交番で預かっています」という電話があった。何をどうしたのか、記憶はほぼなかった。「彼のこと、好きになっちゃったみたい…。」 その言葉だけが頭の中をぐるぐると何度もまわっていた。
彼女の言うことに嘘はない。7年間付き合って、それはよくわかっていた。常識とか世間体とか、そういう言葉にはまったく縁がない。何にも縛られない天真爛漫さが彼女の魅力だった。顔が小さく、アイドル並みの顔立ちは、まっすぐな生き方に対して弊害となる様々なものを跳ねのけてきた。可愛ければ、許されることは多い。
気持ちは誰のせいでもない。そんな言葉が僕の脳裏をかすめた。彼女の生き方はそうやって、いつも真実をえぐり出してくる。1日掛かって、僕はそのメッセージを受け取った。
「だって、ふたりとも好きなんだから仕方ないじゃない。」
彼女に会うと、思ったとおりの言葉が返ってきた。そう、仕方ない。気持ちは誰のせいでもないのだから。僕は心の中で、そう復唱して彼女にとって一番いい状況をつくろうと心に決めた。
同級生にも電話をして、こちらは公認していると伝えた。彼女にも彼と自由に会っていいと伝えたし、何気ない会話でも彼女が気を咎めないように細心の注意を払った。ひとりの時には「もう会えなくなるかもしれない」という思いに胸が締め付けられたけれど、もしも彼女が戻って来ることがあったら、就職をして、ずっと彼女が望んでいた結婚をしようと決心した。
キミを困らせるボクと ボクを困らせるキミは
うららかな春のお花畑 いっしょに飛ぶのさ
花から花へとボクが 花から花へとキミが
我儘なふたりはそれでも いつまでもいっしょにいるのさ
色鮮やかな景色に 心は乱れる
若すぎるふたりを裂く 刻よ早く早く
巡り続ける季節は あてもなく果てしもなく
何があっても生まれ変わっても 離れられない二匹の蝶々
寒い冬の窓辺に 夜露は流れる
シーツを濡らすふたりの 吐息深く強く
春が来たらお花畑 飛ぶ力は残しとけ
あたたかく ゆるやかな 風に乗って 今度は遠くへ行こうぜ
Music Video「春と蝶々と赤い糸」
Lyrics/Composed/Arranged/Movie:Chihiro
-- SpecialThanks --
<Vroid 衣装、パーツ>
月輪熊の谷/熊谷ノワさん(ヒロの半袖開襟シャツ)
piriod/こまこさん(冬のおそろいコーデセット・シューズ)
ぴケの創作屋さん/ぴケさん(バイクヘルメット)
HulaFlatWorksさん(柄シャツ、ジッパータートル、パンツ、靴コーデセット)
KoYoMi Works/詞詠さん(プリーツデニムワンピース、ブーツセット)
まがどブース/m@gadoさん(彼女の友達のライダースジャケットとTシャツ)
fukuma/doku_fさん(彼女の友達のブーツ)
くろの倉庫/kurosakiworksさん(タートルネック)
<背景画>
fuzisawaさん(夜の歩道)、春杞ひなさん(緑の並木道・黄色の並木道)
arareさん(バイク後ろ)、geckoさん(バイク横)
peppermint blueさん(バイク斜め下)、petrovkさん(バイク正面・真上)
sakurase aoiさん(ヒロの寝室)、yoseiさん(夜の路地裏・ネオンと路地裏)
背景専門店みにくるさん(ファミレスセット)、T.Hさん(桜の並木道)
歩夢さん(歩道橋・歩道橋/背景改変/家の外観・ブランコ・天の道)
UMIさん(道路上空)、flatさん(束ねたカーテン)、イラストスターさん(枕)
シグ子さん(ベッド)、きこきこさん(夕方の土手)
Vocal:Vocaloid MEIKO V3 / Character:Vroid-Studio、3tene
Motion Capture:カーネギーメロン大学モーションキャプチャライブラリ、Jennifer Sumbu Longeさん
StockFootage:Storyblocks