「胸を張りな」 正しいことを正しいと言うために

日本へ帰国して2年生まで通っていた小学校に6年生から編入した。教室の話題はすっかり「ドリフターズ」から「オレたちひょうきん族」へと変わっていた。そして、かつて一緒に遊んでいた同級生たちも様変わりしているように僕にはみえた。

正確にいうと、それは僕のクラスメイトに限ったことで、他のクラスの子たちが3年間の成長を感じさせる6年生らしい落ち着いた風格を纏っているのに対し、僕のクラスの子たちだけが、むしろ3年前より子供っぽくなっていた。

5年生から6年生へのクラス替えはなく、5年生の時の担任は他校へ異動となったらしい。その異動した担任教師の話を聞くたびに僕は戦慄を覚えた。彼は教師でありながら、ひとりの気弱な子をいじめのターゲットに選び、クラスを煽動していた。事あるごとにその子をいじり、ひどい仇名までつけていた。クラスの男子はそれを面白がり、教師といっしょになって、その子を追い詰めた。

生贄を添え、底辺を確定させることで集団全体の優越感を煽る。そうして形成されたヒエラルキーをもって集団を統率する。もちろんその頂点には自分がいる。教師ともあろうものがそんな卑劣な手段でクラスの統率を図るなど言語道断だ。

「つまらねぇな。5年の時は楽しかった」
クラスメイトのそんな言葉を聞くたびに僕は孤立していった。学校がつまらなく、登校したくはなかった僕に毎日あの声が聞こえていた、「胸を張りな」と。僕は正しいことを正しいと言うためだけに登校した。ヒエラルキーの頂点であったその担任教師に替わる上層グループに冷ややかな言葉を浴びせながら、弱い下層の子たちと仲良くした。

「つるむ」体質というのは日本人特有のものなのだろうか。「村八分」なんていう言葉も日本には古くからある。でも、上層グループといえども、ひとりの時はおとなしい。つまり、集団の中では孤立を恐れて徒党を組むということなのかもしれない。

一人ひとりがもっと独立した個として孤立を恐れなければ、ヒエラルキーやスクールカーストなど形成されないのに…。上層にしても中層にしても、それは一人ひとりの弱さの表れなのだろう。

人はひとりで生まれてきて、ひとりで死んでいく。そして誰かと100％わかりあえることもない。その孤独と向き合い、その孤独を受け入れて生きることが何もかもの出発点ではないのだろうか。僕が人生を通して、親しくさせてもらってきた人の多くが「孤立を恐れない人」だった。一匹狼で、ヒエラルキーの外にいる人だった。

孤独だからこそ、他人のぬくもりがとても価値あるものだということに気づいている人たち。そのスタンスは人間の根源的な弱さを受け入れる強さの表れであり、だからこそ相手を大切にできる優しさをもっている。

起首孤独。小学6年生から現在まで、その言葉はいつも僕の根底にある。10代も終わりの頃、関東から遠く広島まで墓参りに足を運ぶほど中原中也が好きだった。彼の詩の一節にこんなフレーズがある。

“ゆうがた、空の下で、身一点に感じられれば、万事に於て文句はないのだ”