北風と太陽。
力で心はなびかない

社会の構造にヒエラルキーは存在しても、心までは支配できない

北風と太陽
episode2

「やっちゃいな」

朝、小学4年生の僕は、教室にカバンを置くと、広い校庭の一番奥にあるバナナの木の茂みに身を隠した。そこは、とある東南アジアの国の日本人学校だった。そして、すでに数週間、それは僕の朝の日課になっていた。

「みーつけた。」 いじめグループの参謀的な子が僕をみつけ、いじめのリーダー格の子を呼んだ。

いじめが担任教師の耳に届いたのは僕が初めて報復に出たためだった。ある日の放課後、人気のない理科室棟の前の回廊で僕とリーダー格の子は出くわした。彼はひとりだった。理科室棟の2階部分までそびえる、白いペンキが所々に剥げ落ちた格子にはツタが絡まり、西日は木洩れ日となって、彼のシルエットを浮かび上がらせていた。

「やっちゃいな。」 その時、耳元であの声が聞こえた。僕は言葉もなく、力いっぱい彼を蹴り上げた。小学校4年生当時、まだまだ体の成長には個人差があり、僕の体が大きかったのに対し、彼は小さかった。彼の脛の辺りが大きく腫れあがった。彼の母親は担任にそれを報告した。

担任はクラスの児童からいじめの状況を聴き取ったうえで学級会を開いた。児童に机にうつ伏せ、目を閉じることを命じると様々な質問を投げかけ、挙手を募った。

 

あとで担任に聞いたところ、彼は僕が疎ましかったらしい。僕はクラスの目立たない子とも好んで話をしたし、(そのせいなのか、また、僕が望んでいたかどうかは別として)学級委員にもなっていた。彼と同じ器楽サークルの同じクラリネットパートで僕はパートリーダーにもなっていた。成績も運動神経も良かった彼はそんな僕が邪魔であり、自分がいつもNo.1でいたかった。

いじめに加わった3人はどの子も親が大使館に勤める子で、いじめのリーダー格の子は大使の息子だった。昭和の国語の教科書に出て来るような親のヒエラルキーが子供社会にそのまま反映するカタチだった。

担任が僕の母親にだけ、そっと打ち明けてくれたことがある。「学級会で挙手を募った際、彼は誰にも慕われていないようだった。」きっと彼はエリートの親の背中をみながら、ヒエラルキーの頂点をいつも意識していたのだろう。社会の構造にヒエラルキーは存在しても、心までは支配できない。彼は4年生のうちに他国へ行ってしまった。力では心はなびかないということを大人になった彼は気づいているだろうか。

北風と太陽

嗚呼 弱肉の翼 もがれて舞い散る
心はもがいてる

嗚呼 得意気な瞳はとどめを知ってる
爪を磨いて

狭い部屋で逃げ場を奪われるように
上を目指す正義を振りかざすように

力任せに声を荒げる強者たち
幾千の日々重ねても 心はなびかない
嗚呼 あたたかな日差しに
熱を借りながら 心は前を向く

嗚呼 止まらぬ動悸の息切れの中で
何を思うのか

嗚呼 運命の翼 もがれて舞い散る
心が壊れてく

凍えるほど冷えた体寄り添い
生きてく力を諦めぬように

力任せに声を荒げる強者たち
幾千の日々重ねても 心はなびかない
嗚呼 あたたかな日差しに
熱を借りながら 心は前を向く

北風と太陽

Music Video「北風と太陽」

Lyrics/Composed/Arranged/Movie:Chihiro

-- SpecialThanks --

<Vroid 衣装、パーツ>
もちょんさん(ライラ服のbutton)、華音3Rさん(ライラ服のlacework)
くらうど職人さん(ヒロのネクタイ柄)、もにもにぃさん(社長のネクタイ柄)

<背景画>
きまぐれアフターさん(社長室・エレベーターホール)、れのみみさん(社長室の天井)
kimtoruさん(社長室の天井正面)、MovieCube(masa YASU)さん(舞い散る羽)
yoseiさん(エレベーター)

Vocal:Vocaloid MEIKO V3 / Character:Vroid-Studio、3tene
Motion Capture:カーネギーメロン大学モーションキャプチャライブラリ、Jennifer Sumbu Longeさん
StockFootage:Storyblocks