無為自然。
芽生えるもの、芽生えるままに

人を傷つけたり、法に触れたりしないのであれば、自分らしく生きればいい。僕らの存在もこの宇宙の現象のひとつに過ぎないのだから

Big Bang
episode1

「もう、やめなよ」

兄の幼稚園の卒園式のあと、その幼稚園の礼拝堂の前で(教会が運営する幼稚園だった)兄と並んで撮られた1枚の写真。3歳の僕は屈託のない笑顔を浮かべているようにみえる。でもそれは、“ふり”でしかなかった。そう書くと、まるで太宰治のようだけど、僕は太宰のようにイケメンではないし、あの3枚の写真のような人生も送ってはいない。ただ、「笑わなくちゃいけない…」、その時そう思っていた記憶が僕の覚えている僕の最も古い記憶だ。

僕はその時、悲しかった。大人たち(母親やたぶん兄の同級生の親たちだろう)が笑うので、僕は何で笑われているのかわからず、ただただ悲しかった。でも写真の僕は笑顔で写っている。それは幼年期の僕を象徴する1枚の写真だと思う。

小学校を卒業するまで母は僕に厳しかった。もちろんそれは愛情あるがゆえの厳しさであり、幼いながらにもそれは僕にもわかっていた。ただ、園児や小学校低学年の子供が大人並みの気遣いや作法、礼儀を理解するのはむずかしい。

「次は西友に行くんだね!」 地元の小さなスーパーで、買った肉や野菜を買い物袋に詰め込む母に、僕がはしゃぎながら言う。すると母はすぐさま返す。

「このスーパーと西友は“商売敵”なの。そんなことを大声で言うものじゃありません」 こんな具合だ。

小学校にあがる前の子供に“商売敵”なんて言葉が果たして通じるものなのか。今となってはそんな疑問も頭をよぎるけれど、わかるまで言えば、幼くても理解はするものなのだということを僕は身をもって体験してきた。実際僕は幼いながらにも“商売敵”の意味を理解していた。でも、それと引き換えに子供は何かを差し出さねばならないことも僕は知っている。中学校に上がって今度は完全な放任主義に変わるまで、母のそんな教育は続いた。幼少期には厳しく、中学生からは放任する。それが母の教育哲学だった。

 

“いい子”を演じていれば両親も喜ぶし、自分自身も “大人びた子供”と呼ばれることに多少の優越感を持っていたのかもしれない。でも僕は、次第に“いい子”を演じることに疲れてしまった。周囲の子供の子供らしい言動やちょっとした悪ふざけが僕には羨ましかった。

そこから解放される快感と、その罪を背負う恐怖。役を降りるということは、ひどい裏切り行為に思えた。風邪で熱にうなされた時などは必ず決まってみる夢がある。自分が小さな蟻で、白い大きな、自分の数千倍はあるであろう角砂糖を支えている。もし自分が手を放せば、世界に大惨事が起きる…。

そんな僕に転機が訪れたのは小学5年生の時だった。「もう、やめなよ」 誰かが僕に言った気がした。その時をきっかけに僕は吹っ切れたように変わった。その時々の気持ちを尊重し、子供らしく自分が振舞いたいように振舞った。世界が明るくなったような気がした。それ以降、僕はその歳々に“なりたい自分”によく変わった。

芽生えるもの、芽生えるままに。僕らの、込み上げてくる想いの一つひとつも、宇宙の現象の一部でしかない。人を傷つけたり、法に触れたりしないのであれば、芽生えるものは芽生えるままに受け入れていい。あの時、「もう、やめなよ」と言った声の主は僕にそれを伝えたかったのだと思う。

ある日、通いの店のママにそのことを話したら、「それは赤塚不二夫さんと同じだね」と言われた。天才はそれを『これでいいのだ』という、ひと言で表現できてしまう。天才と凡才の違いを痛感した。

※ページ上の写真は僕がイメージする“ライラ(Lailah)像”を娘(当時小学6年生)に協力してもらって撮影したものです。

Big Bang

Full Li La  どこからか湧きだして
Full Li La  いまにもはじけそうじゃん
Full Li La  恋もする17歳
Full Li La  うつせみのメリーゴーランド

ぐんぐん 育ってゆく ぐんぐん 大きくなる
胸も、手足も、希望も、不安も、飢えた欲望も

Big Bang 芽生えるもの
Big Bang 芽生えるまま
Big Bang 思いのままに

洒落た手首のバッグまわすみたいに
まわりをかきまわす そうみられてる
きちっとしたレシピのようにはいかない
“すり傷”もスパイス

“用意された世界は私の世界”と
胸を張り、声を張る うたかたの季節よ

Full Li La  ここから抜け出して
Full Li La  永眠(やす)めたらラクそうじゃん
Full Li La  逃げ出す恋もそうじゃん
Full Li La  うつせみはメリーゴーランド

ぐんぐん 昇ってゆく ぐんぐん 遠くなる
街も、景色も、思い出も、夢も、はるかな大陸も

Big Bang 銀河を超えて
Big Bang 宇宙(そら)の彼方
Big Bang 星降るままに

Big Bang

Music Video「Big Bang」

Lyrics/Composed/Arranged/Movie:Chihiro

-- SpecialThanks --

<Vroid 衣装、パーツ>
ワンダホの店/ワンダホさん(小学生の頃の彼女/ロリポップ★ガーリーコーデ)
KoYoMi Works/詞詠さん(彼女のデニムジャケット)
まがどブース/m@gadoさん(彼女の友達のライダースジャケットとTシャツ)
fukuma/doku_fさん(彼女の友達のブーツ)
ららるーのアトリエ/Lalaluuさん(彼女の友達のエンパイアワンピース)
スタジオずみ/ずみさん(小学生の頃のヒロ/スタジャン&パーカーセット)
くらうど職人さん(ヒロのネクタイ柄)
もちょんさん(ライラ服のbutton)、華音3Rさん(ライラ服のlacework)

<背景画>
沢音千尋さん(OP/ライラの足もとの地面)
歩夢さん(学校の廊下/改変)
えりん個展さん(月)
中嶋メチルさん(胎児)
背景職人Mさん(公園のベンチ/夜に改変)
K-factoryさん(ガイコツマイク・スタンド)
すみかどさん(光の差し込む森の廃墟)

Vocal:Vocaloid MEIKO V3 / Character:Vroid-Studio、3tene
Motion Capture:カーネギーメロン大学モーションキャプチャライブラリ、Jennifer Sumbu Longeさん
StockFootage:Storyblocks