Loading...

馬鹿でも不器用でも
大切なことさえ間違わなければ
きっと生きていける

序(はじめに)

幼い頃から僕の中には、ある少女が棲んでいます。人生の節目節目で登場する彼女は、何も言わずにただ僕を睨んだり、微笑んだり、時に片言のフレーズを呟いて、メッセージを伝えてくれます。決して会話をすることはなく、そのメッセージも言葉というよりは電波や音階のようなものなのですが、不思議と僕の中に閃きや警戒が生まれるのです。

こんなに長い間いっしょにいるのに、彼女には名前がない。ある日僕はそれに気が付いて、彼女に名前をつけることにしました。「ライラ…」 口をついて出たその響きに、僕は不思議な音階を感じ、惹き込まれていきました。

“ライラ(Lailah):ユダヤ教やキリスト教に伝わる、受胎を司る天使”。ネット検索で表示されたページにはそう書かれていました。いくつかの記事によれば、ライラは幼児の魂を母親の胎内へ導き、生まれたその後の人生や世の中のことを教え、この世へ誕生する瞬間に(そっと幼児の唇に指を置き、)それらを忘れさせるといいます。僕に自分の役割や生きる意味を教えてくれる彼女にピッタリな名前だなと思い、それから僕は彼女を“ライラ”と呼ぶことに決めたのです。

この「ライラの言葉」は、これまでに彼女が僕に教えてくれたことを抜粋したものです。生きるうえで、背中を押してくれたり、窮地を救ってくれた言葉たち。それは僕にとっての人生の処方箋。どれも言葉にすれば当たり前のことですが、僕にとっては生きる道しるべなのです。

中学校に入学した頃から、自分は頭が良くないということに気づき始めました。もうそれからは逃避行の人生です。大学受験を投げ出し、親を説得して入った音楽の専門学校まで投げ出し、25歳までフリーターをしながら社会に出ることを拒んでいました。

どうしても投げ出したくなかった彼女との結婚を機に就職。やがて独立をした時に考えたのは、世の中の「原理原則」、いわゆる「一般論」といわれるものを知りたい、ということでした。頭の良くない僕は、「一般論」や「正論」にしがみつき、それを貫き通すことでしか生きていけないと考えたのです。「一般論」や「正論」は時に厳しく、弱っている相手に強要するものではありません。でも、自分に対してこだわれば、それは生きる道しるべとなります。

そしてそれらは、幼少期からライラが僕に教えてくれたメッセージに他なりませんでした。こうして幼少期まで振り返り、書きとめてみると、どれも当たり前ではあるけれど、この世の中で生きていくために大切なことばかりだと改めて気づかされます。

道しるべであり、時に処方箋となる言葉たち。馬鹿でも、不器用でも、“大切なこと”さえ間違わなければ生きていける。ライラはそう教えてくれているのだと思います。

2023年12月 中嶋千尋

蛹の章12曲を毎週土曜に公開します

楽曲37曲と映像ストーリー。楽曲制作の背景となった物語を添えて「ライラの言葉-とてもちいさな物語-」蛹の章12曲を1/13~3/9の毎週土曜日の公開でお届けします。

第12話から読む

幼虫の章11曲を11日間でお届けします

楽曲37曲と映像ストーリー。楽曲制作の背景となった物語を添えて「ライラの言葉-とてもちいさな物語-」幼虫の章11曲を11日間でお届けします。
 

第1話から読む